生徒や子どもたちに運動を教えているとき、
- 何度言っても、できるようにならない
- 必死に教えているのに、なかなか上手にならない
- 色んな練習方法を試しているのに、うまくいかない
ということはありませんか??
そのとき、どんな声かけやフィードバックを行っていますか??
生徒や子どもたちをより良くできるようにさせたいとき、コーチや先生は声かけやフィードバックを工夫して指導する必要があります。
目の前の学習者を「もっと上手にできるようにさせたい!」という指導者に向けて、「動きをより良くできるようにさせる4つの指導レベル」について、紹介します。
ここでは、スポーツ運動学の立場から、『運動学講義』(金子・朝岡,1990)という書籍を参考にして、解説します。
この記事を読むことで、学習者の動きをより良く「できる」ようにさせるにはどのような声かけやフィードバックを行えばよいのか、が分かるようになります。第4レベルでの指導が行えるようになれば、学習者の動きはぐっと良くなるはずです。
※本書はかなり高度な専門書です。本気でスポーツ運動学を学んでみたい!という人はどうぞ。
この記事では、一部分を抜粋してできる限り分かりやすく、解説しています。
第1レベル「正否の判断」
まず1つ目の指導レベルは、「正否の判断」です。
この段階では、学習者が行った動きに対して、
- 「良い」ー「悪い」
- 「できた」ー「できてない」
など、ある基準によって、指導者が○か×かの判断を下すだけになります。
例えば、
- 走り幅跳びで、○○センチを「超えた」か「超えていない」か
- 体操競技の鉄棒の後方宙返りで、「立った」か「立っていない」のか
といったことを判断するのが、第1レベルでの指導となります。
このとき、
どうしてその距離を「超えられた」のか、どうすれば次に「超えられる」のか?
どうして宙返りが「立てた」のか、どうすれば次に「立てる」のか?
というような、次にどうすれば動きがより良くなるのか、ということに対して指導者が関われていないことになります。
極端に言うと、もしその基準を判断できる機械やなんかを導入してしまえば、第1レベルでしか指導を行うことができない指導者は必要ないことになってしまいます。
第2レベル「欠点の指摘」
2つ目の指導レベルは、「欠点の指摘」です。
この段階では、学習者の動きに対して、
- 「○○がよくない!」
- 「○○ができていない!」
というように、指導者が、学習者の動きの欠点を指摘します。
例えば、
- 跳ぶときの、姿勢がよくない!
- 宙返りで、腕の引き上げ動作ができていない!
といった、欠点の指摘を行うのが、第2レベルでの指導です。
体操競技の審判員が採点を行うときのような、現時点での評価である、とも言えます。
このとき、指導者がその動きについて、動きの質の良し悪しを評価できなければ、この欠点の指摘は行えません。
実際の指導現場では、この欠点の指摘のみで、指導をしてしまうことは多くあるのではないでしょうか。
「膝が曲がってる!」
「つま先伸びてない!」
「さっき言ったことができてない!」
などの言葉は、指導現場でよく飛び交っているのではないでしょうか。
このときも、学習者の動きがどうすれば次良くなるのか、に対して指導者が関われていないことになります。
動きをより良くするための「動きの修正」をどうすればいいのかは、この第2レベルでの指導では学習者自身にゆだねられてしまっていると言えます。
第3レベル「方法の指摘」
3つ目の指導レベルは、「方法の指摘」です。
この段階では、学習者が行った動きに対して、動きの欠点を指摘した上で、次にどうすればいいのか、その方法を指摘します。
例えば、
- もっと太ももに力入れて、膝伸ばして!
- このとき下駄(つま先伸びてない)だから、力抜かないで!
- もっと強く手を振って!
などと、欠点を修正する方法を示すのが、第3レベルでの指導です。
このとき、「膝を伸ばす」という動きの修正一つでも、「太ももに力を入れて」「ピーン!と足を伸ばして!」「膝をまっすぐにして!」など、表現の仕方はさまざまです。
また、「地べたに座って、膝裏を地面につけるようにして膝を伸ばさせたり」、「イスに座って、足を地面と平行になるようにさせたり」、「曲がっている膝を補助で伸ばしてあげたり」するなど、学習者が膝を伸ばすやり方もさまざまです。
このような方法をたくさん持っている人は、いわゆる「引き出しの多い人」であり、色々な方向から動きの修正を促すことができます。
この第3レベルまで到達して初めて、指導者は「動きの修正」、つまり学習者の動きを良くすることに関われていると言えます。
第4レベル「学習者の感覚世界の指導」
4つ目の指導レベルは、「学習者の感覚世界の指導」です。
学習者は一人一人、個人の感覚世界を持っています。
そこにいかに指導者が入り込んで、言わばどれだけ学習者に共感して、その子に合った指導できるかというのが第4レベルでの指導になります。
この段階では、学習者が行った動きに対して、例えば「膝が曲がる」という欠点があった場合、
- 膝を曲げる意識でやっているのか
- 膝を伸ばそうとして曲がってしまっているのか
- 膝をどうこうしようとする意識はないのか
- そもそも膝がどうなっているかもわかっていないのか
などといった、「動いているときの学習者の感覚世界はどうなっているのか?」というところに指導者が寄り添って共感し、考え、分析して次にどうすればいいかを指導するのです。
このとき、学習者の動きを動画で撮影して、「ほらここが曲がっているでしょ?」と理解させることがあると思います。しかし、実際に動いているときには、学習者にはその第三者的な視点では見えていないので、注意が必要です。
そのために、ときには動きを観察するだけではなく、学習者に対して「どんな感じでやっているの?」と言葉を交わすことも必要になります。
「学習者の感覚世界に入る」という、指導者の積極的な関わりによって、その後に行う指導をより効果的にすることができます。
まとめ
今回は、「動きをより良くできるようにさせる4つの指導レベル」について、解説してきました。
学習者の動きをより良くするためには、欠点に対する、効果的な方法を示すこと(第3レベルの指導)や、学習者の感覚世界に入り込んで指導を行うこと(第4レベルの指導)が必要です。
色々な方法を指摘するためには専門的な知識が必要であり、学習者の感覚世界に共感するという能力を身につけるためには、今回の知識を得た上で、目の前の学習者に日々本気で関わり続けることが必要です。
指導者は目の前の学習者に対して、その感覚世界に共感しようとする姿勢を持ち続けてほしいと思います。
以上、「動きをより良く“できる”ようにさせる4つの指導レベル」についてでした。