生徒や子どもに、やってほしい動きのお手本を見せても
- その動きをうまくマネできない
- もはやその動きを挑戦してもくれない…
こういったことで悩んでいる先生・コーチはいませんか??
運動指導のとき、これからやる運動課題を説明するために、指導者が自らお手本を見せることは、よくあることだと思います。
このとき、生徒や子どもたちが「やってみたい!」と思えるお手本を行うことが必要です。
では、学習者が「やってみたい」と思えるお手本を行うには、どうすればいいのでしょうか?
運動能力が高い人ほど、運動学習に効果的なお手本ができる、というわけではありません。
効果的なお手本をする方法について、スポーツ運動学の立場から、解説します。
この記事を読むことで、目の前の学習者が「やってみたい!」と思えるお手本がどのようなものか、分かるようになります。
お手本=見世物 ではない
運動学習において、お手本というものは、生徒や子どもたちに見てもらって、
- すごい! と喜んでもらったり
- 興味を惹きつける
ためだけのものではありません。
そのお手本をみて、学習者が「やってみたい」とか「できそう」と思えるかどうか、が重要です。
一流のスポーツ選手がやるような素晴らしい動きは、魅力的であり、みんなの興味を引くは十分かもしれません。
しかし、
体育の授業や、スポーツ指導の現場では、お手本であるその動きをみて終わり。というわけにはいきません。
そのあと実際に、生徒や子どもたちがその動きをやってみることになります。
よいお手本をするためには、「素晴らしい動きであるか」どうかよりも、生徒や子どもたちにとって「やってみたい!」と思えるかどうかが重要なカギを握っているのです。
“すごい=やってみたい”ではない
生徒や子どもたちがお手本をみて、「すごい!」と思っても、やってみたいと思えない動きがあります。
例えば、学校体育の授業で〈バク転〉をみせた場合、
スゴイ! でも、自分にはできなさそう…
と思う子がほとんどではないでしょうか。
もちろん、自分もいつかやってみたいというような、憧れを抱くことはあるかもしれません。
しかし、「その動きができそう」につながる「やってみたい」ではありません。
すごい!という歓声は得られても、「じゃあみんなもやってごらん?」促して、やろうとする子はどれだけいるでしょうか。
むしろ、学習者の能力とかけ離れているほど、そんな動きはできない、と拒絶反応を引き起こしてしまう可能性もあります。
もし仮に、すごいと思えるお手本だけをみせて、生徒や子どもたちがそれができるようになるのであれば、
SNSやYouTubeなどで、動画がいつでもどこでも見れるようになった現在では、運動指導者はいらないことになってしまいます。
よいお手本は“それならできそう”と思える動き
技術的な欠点のない、素晴らしいお手本は、生徒や子どもたちの興味を引くためには十分です。
しかし、運動学習の場では、そのお手本が学習者の「やってみたい」に繋がらなければ、意味のないものになってしまいます。
こういったことは、程度差はあれ、体育授業、スポーツ指導の現場で起こっていることではないでしょうか。
「できる」につながる、学習者の「やってみたい」を引き出すためには、
- 体操選手が膝つま先の伸びた「側転」のお手本
よりも、
- 器械運動の苦手な体育教師が不格好でもなんとかできる「側転」のお手本
のほうが、効果的であることが多くあります。
つまり、たとえお手本が見栄えの悪いものであったとしても、生徒や子どもたちが「それならできそう……!」と思えるならば、そのお手本は意味あるものになります。
とくに運動が苦手な子にとっては、上手すぎるお手本よりも、すこし欠点があるくらいのお手本の方が効果的になります。
私の実践経験の一つとして、
中学生のバスケットボールの授業では、バスケ部の人にまず上手なレイアップのお手本をみせてもらったあと、バスケが専門ではない私がレイアップのお手本をみせます。すると、失笑が起きることもありますが、「それぐらいなら…」と球技が苦手な子もやってみてくれることが多くあります。
また、
- 側転でわざと転んでみたり、着地でしりもちをついてみたりすることで、
こんな失敗もあるよね、はじめはこんな失敗になってもいいよと“失敗のお手本”を先にやってみせると「失敗してもいいんだ」、「ちょっとやってみようかな?」などと、運動が苦手な子にとっても挑戦しやすい場をつくることもできます。
さらには、
- 転んでもいいけど、両手をマットに着いて、手の間を見ておこう!
などと、欠点がありつつも、「ここだけはやってほしい」というコツが見えるお手本ができると、よりよいお手本となります。
そのためには、その動きの核となるコツをおさえておく必要があります。このあたりの話は、また改めて解説できればと考えています。
とにもかくにも、学習者のレベルに合わせて、「やってみたい!」「それならできそう」と思えるお手本を行うことが、運動学習の場では効果的であると言えます。
まとめ
動きのお手本を効果的に見せる方法について、解説してきました。
先生やコーチ自身が、運動課題を上手にできる、素晴らしい技ができる、というのは指導者として重要なことです。
しかし、お手本を見せるときには、それが学習者の「できる」につながる「やってみたい」を引き出せているか?が重要です。
いくらお手本をみせても、説明しても、学習者がやろうとしないときには、
目の前の生徒や子どもたちが「それならできそう」と思えるお手本であるかどうか、見直してみてはいかがでしょうか。
得意な種目では、初心者の気持ちになって、
苦手な種目では、失敗してもOK!という自信をもって、
お手本をみせてほしいなと思います。
以上、動きのお手本を効果的に見せる方法、でした。